國清尚之がスケッチブックを開いている手元。奥の机にはiPadと資料が置かれている

設計事務所の仕事というと、図面を引いている姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれど実際には、図面になるずっと手前に長い時間があります。

その時間のほとんどを占めているのが、スケッチです。

設計事務所の中で普段どんなことを考え、どう手を動かしているのか。自分たちだけで書こうとすると、どうしても説明的になってしまいます。そこで、第三者に聞いてもらいながら話すという形で、事務所の進め方を客観的にご紹介していく連載を始めることにしました。

第1回は、スケッチについて。事務所のウェブサイト制作を担当している株式会社ワールドリンクの上原が聞き手となり、代表・國清尚之に、実際のスケッチブックを開いてもらいながら話を聞きました。

スケッチには、2つの媒体がある

上原 今日はスケッチについてお伺いしたいのですが、普段どんなふうに描かれているんですか。

國清 スケッチと一口に言っても、実は媒体としては2つに分かれているんです。紙のスケッチブックで描くときと、iPadで描くときがあって。

上原 使い分けているんですね。

國清 基本的にスケッチブックのほうは、僕だけでいろいろ考えるときですね。プロジェクトが始まったときに、そもそもどういう方向性で行こうかというのを、延々とこのスケッチブックに描いていく。

國清 それが途中で具体的になってくると、Slackでスタッフとやり取りをするようになるので、そこからはiPadが増えていきます。

スケッチブックは、自分と対話するための場所

上原 スケッチブックのほうは、どういう感覚で描いているんでしょうか。

國清 その時に考えていた部分をきちんと形にして、自分と対話をしたい、みたいなところがあって。いろいろな思考を絵にしながら、考えを深めていく。そういうことをやることが多いです。

スケッチブックの見開き。素材の質感や形状のスタディが手描きで並んでいる

國清 この中で「いいな」と思っても、まったくスタッフの目にも触れずに閉じられていくものも当然あります。この中で「これは可能性がありそうだな」というのが出てきたタイミングで、初めてスタッフとコミュニケーションを取る、という感じですね。

上原 プロジェクト以外のことも描かれるんですか。

國清 たまに書いてますね。たとえば旅行に行ったときに、いいなと思ったもの。写真ももちろん撮るんですけど、「なんでいいと思ったんだろう」ということを、その写真を見たり現物を見たりしながら絵にしてみて、考えを深めていく、みたいなことをします。

スケッチブックに描かれた有機的な輪郭のスタディと、その断面の検討スケッチ

國清 スケッチブックは、基本的にカバンに入れて持ち歩いてたりしますね。

照明のスケッチ

上原 何ですか、これは。

國清 これは照明です。照明のスケッチ。全部、ひとつのものなんです。

上原 これで丸々1ページ以上ありますよね。

國清 デザインの根本的な入り口の検討みたいなことを、こうやって描いていて。僕は意匠設計といって建物のデザインがメインではあるんですけど、照明のような設備のデザインまで提案することがあります。建物に関わる全体のバランスを、しっかり考えたいという想いからです。

スケッチブックの見開きに並ぶ照明器具の形状バリエーションのスケッチ
和紙を使った照明の形状案を、高さ寸法を添えて繰り返し描いたスケッチ
ひとつの照明について、形の案を繰り返し描いていく

文字しかないページ

上原 文字だけのページもありますね。

國清 意外とあるんですよ。文章しかないみたいなときも。普通にパソコンで文字にするでもいいんですけど、自分の中だけでその言葉を形にしたいときは、やっぱりここに書くことが多いですね。

絵がほとんどなく、考えたことが文字だけで書き込まれたスケッチブックのページ

國清 これなんかは、そもそも都市と建築の関係はこれからどうなっていくか、みたいなことを考えたときですね。まず言葉で書いてみて、じゃあそれをスケッチで表すとどうだろう、と描いてみる。そういうプロセスを踏むんです。

上原 1冊はどれくらいのペースで埋まるんですか。

國清 だいたい2〜3ヶ月で1冊くらいですかね。

使い終わったスケッチブックの表紙。使い始めた日付が手書きで記されている
表紙には、使い始めた日付を書いている

國清 ちなみに、字は汚いんですよ。よく言われるんですけど。

上原 そう思いました(笑)。

國清 次の日の自分が読めない、みたいなことがよくあるんですよね。

iPadは、人と共有してドライブさせるための場所

上原 iPadのほうは、どう使われるんですか。

國清 iPadは、一段階具体的ですね。スタッフの方に図面を描いていただいて、それを「もう少しこういうふうにしてほしい」と僕がチェックしていくプロセスです。

iPadに表示した平面図に赤で修正指示を書き込んでいるところ

國清 こういう2次元の検討をするんですけど、同時に3次元の検討もしていて。これ、さっきスケッチを描いていた照明ですね。3Dのレンダリングをベースに、僕がまたチェックをしていって仕上げていく。

iPad上の3Dレンダリング画像に、素材や光の扱いについて赤字で指示を書き込んだ画面
3Dのレンダリングに直接チェックを入れていく

國清 これはコンペだったので、最後に提出するシートがあるんです。「どういう言葉を書けば今回のことが伝わるだろうか」というおおよその方針を、iPad上でスケッチしていたり。

國清 同時に、最後に仕上げるときの具体的な人の配置とか、「どういう行為をしている人をこの角度で置いてほしい」みたいなところまで、すごく細かく指示をしたりします。こういうのはデータ上でコミュニケーションを取りながらやるので、スケッチブックというよりはiPadですね。

3Dパースの上に、カフェにいる人、立って話す人、会話している人などを描き込み、配置の意図を書き添えた画面
誰がどこで何をしているかまで描き込んで共有する

1日に20枚くらい生まれている

上原 だいたいひとつのプロジェクトで、スケッチはどれくらい使うものなんですか。

國清 どれくらいなんだろう。これもプロジェクトによるんですけど、たとえば1日にスタッフから進捗が2回くらい来るとするじゃないですか。「これはこうだ」というモデリングの絵がいくつかあったときに、1回に対して僕が10枚とかスケッチを描いてフィードバックする。

國清 なので、だいたい1日に20枚くらいはスケッチが生まれていて。プロジェクトが増えれば、これがまた掛け算になります。

上原 それが1ヶ月続いたら、とんでもない量ですね。一覧で見せていただくことはできますか。

國清 こんな感じですね。ひとつのプロジェクトだけでも、これくらいあります。

iPadの写真アプリを一覧表示にしたところ。ひとつのプロジェクトの検討画像が画面いっぱいに並んでいる
スクロールしても続く検討画像の一覧。3Dレンダリングや赤入れした図面が並ぶ
ひとつのプロジェクトで蓄積された検討画像。スクロールしても終わらない

「妖怪性があるか」という決め台詞

上原 これ、見てもいいですか。……面白いなこれ。完全に自問自答ですね。

國清 そうなんですよ。最近スケッチブックで描いていて、この建築が面白いかどうかというときに、自分に問う決め台詞みたいなのができて。

妖怪性があるかどうか。

上原 妖怪性、ですか。

國清 業界の言葉じゃないんですけどね(笑)。もっと言うと、この建築は何か新しさを切り拓いているのかどうか、みたいなことを自分に常に問うようにしていて。

國清 それで面白いのが、問うた後に、答えが言葉じゃなくてスケッチだったりするんですよ。言葉も重要なんですが、言葉で納得できたら良い建築、という訳ではないので。

スケッチブックの見開き。考えを書き留めた文字と、赤で塗り込まれた形状スタディが同居している

國清 たとえばこのページだと、「何が面白いか」「建築を切り拓いているか」を自分に問うた後で、「それは切り拓いているよね」と思える絵を描いてみる。その絵を見て「ああ、確かにこういう建築なら面白い」と納得できれば、次に進む。

上原 やっぱりクリエイティブな人は、頭の中の構造が違うんだなと思いますね。

ペンギンの泡から生まれた提案

上原 このページは何ですか。ペンギンですか。

國清 あるインスタレーションを考えるプロジェクトのときに、ペンギンの勉強をしていて描いていたものですね。写真を見ながらペンギンを描いていたら、「あれ、ペンギンって泡がいっぱい出てるな」と思って。

ペンギンが水に飛び込む様子と、そこから広がる泡の大きさや動きを分析したスケッチ
泡の大きさ、散らばり方、動きを描き分けながら考えていく

國清 これは羽と体のあいだに入っていた空気が、出ていくときの泡なんです。考えてみると、魚にも人間にも起きない現象なんですよね。地上と水中を行ったり来たりする生物であるがゆえに起きる。すごく美しい現象だなと思って。

國清 それで、このプクプク出る泡をモチーフに提案をして、クライアントに「いいじゃん」と言ってもらって。その後は「この泡のインスタレーションに、どういうものが封じ込められていると面白いか」みたいなことをまた描いたりしていました。

上原 面白いですね。ありがとうございました。

この記事を書いた人 / AUTHOR

國清 尚之 NAOYUKI KUNIKIYO

一級建築士 | 株式会社國清尚之建築設計事務所 代表

1993年、山口県宇部市生まれ。九州大学 工学部 建築学科卒業。リヒテンシュタイン大学(スイスの隣にある小国の建築大学)に留学した後、東京藝術大学大学院 美術研究科を修了(修士研究は「21世紀の妖怪現象」というタイトルで、人間ではないものを通して現代を考えるテーマ)。都内の建築設計事務所で大阪・関西万博 会場デザインに関わる実務を経験したのち、2026年に株式会社國清尚之建築設計事務所を設立。日本建築学会の建築雑誌に文章を寄稿しているほか、出身高校の卒業生インタビューなどでも紹介されています。

CONTACT

建築設計・内装・インスタレーションなどの
ご依頼・ご相談について、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム →