事務所の黒い棚に、段ボールの台ごと並べられた白いスタディ模型の数々

設計事務所の中で普段どんなことを考え、どう手を動かしているのか。自分たちだけで書こうとすると、どうしても説明的になってしまいます。そこで、第三者に聞いてもらいながら話すという形で、事務所の進め方を客観的にご紹介していく連載です。

第3回は、建築模型について。設計の途中でつくられる検討用の模型は、スタディ模型と呼ばれます。完成した建物を見せるための模型とは違い、まだ形が決まっていない段階で、確かめたいことがあるからつくるものです。

何を確かめるために、どうやってつくっているのか。事務所のウェブサイト制作を担当している株式会社ワールドリンクの上原が聞き手となり、代表・國清尚之に話を聞きました。

模型をつくるタイミングは、決めていない

上原流れとしては、最初にリサーチをして、スケッチを描いた後に模型、というのが一般的な感じですか。

國清模型から始める人もいると思います。

國清私の場合、前職のボスがずっと移動してる人だったんですよ。だからスケッチの方がコミュニケーションを取りやすかったんですよね。模型って写真にすると、あんまり立体感がない。ボスが日本にたくさんいる時は、模型ベースでコミュニケーションを取ることもありました。

國清おそらく事務所によっても、スタッフによっても違う気がします。

上原一般的な流れがあるわけではないんですね。スケッチを飛ばすこともあるし、模型をやらないこともある。

國清バレますけどね。この建築は模型で検討してないな、みたいな。

國清寸法感覚とかプロポーションは、建築の本質だと思うので。なるべくいろいろやった方がいいと思います。

建築模型の素材に、こだわりはない

上原建築模型って、何でできているんですか。

國清通常よく使われるのはスチレンボードと呼ばれる素材です。ただ、僕自身は模型の素材にこだわりがなくて。プロジェクトが変わると、また全然別の形が出てきたりします。

針金を曲げてつくった建築模型が、円形の台の上に複数並んでいる
紙粘土でつくられた、山のようなかたまりの建築模型を手で持っているところ
針金でつくったもの(左)と、紙粘土でつくったもの(右)

國清この模型のように、例えば針金を使って作ると、立体感は一番わかりやすいですね。PC上でやるよりも、実際に覗き込むようにして見ることができる。ただ、形をなかなか制御しにくいので、やっぱり初期のイメージのレベルの模型にはなるんですけど。この時は、模型にしてみると、意外とスカスカだなと思ったんです。上から見ると面白いんですけど、アイレベルで見ると、ただゴチャゴチャしているだけで、もうちょっと全体のまとまりが欲しいなと思って。

國清やっぱり、作りたいなと思った形とか方向性を、よりストレートに表現できる素材を選ぶんですね。それで紙粘土でのスタディに切り替えました。

まず100分の1。確かめたいことでスケールを変える

上原基本的には、スケールを変えてやられることが多いですか。

國清そうですね。一般的によく使われるスケールっていうのはあって、100分の1が多いと思います。プロジェクトによっては、50分の1とか、200分の1のスケールにしたりとか、逆に大きい場合だと20分の1とかにしたりするんですけど。

國清まず標準的なものを作った後に、特別な検証をどのサイズでやるかという話ですね。

國清スケッチとかいろいろ挟んで、大きな方針が見えてきた段階で作った模型がこれですね。

敷地模型の上に、透明な膜で囲われたドーム状の空間を置いた建築模型。かすみ草が樹木として配置されている

國清この下敷きになっているものを敷地模型と言います。敷地の情報をもらって、地面の高さなどをその模型のスケールで再現していくものですね。このプロジェクトの敷地は、木々に囲まれた円形のデッキスペースです。

國清そこに、こういう透明の膜で囲われたドーム状の場所を作ると、どうだろうか、というのを検証した模型です。

國清このスケールの模型で見ると、なんかめちゃくちゃいい感じなんだけど、実際の空間のサイズ感ってどんな感じなんだろうねっていうのと、そもそもリアルスケールでの作り方がちょっと分からなかったので、よりスケールを大きくして作ろうとしたのがこれですね。

木の細いフレームと透明フィルムでつくられた、10分の1スケールの大型建築模型
10分の1模型。人が17〜18cmくらいのサイズになる

國清この建築のポイントは、形の違う曲線のアーチのフレームが、すごく華奢なサイズ感で連なっているところです。

作ってみると、倒れる

國清10分の1スケールの模型でも、作るのがめちゃくちゃ難しいんですよ。作りながらサポート材や立てる順番を調整して、何とか形になりました。

國清10分の1スケールになると、図面の形通りに作ったとしても、重さで下がってきます。なので、やっぱりどうしても追加の柱がないとこの形は成立しない。さらに、フレームと直交する方向の力に弱いんですよね。

アーチ状のフレームにラップを巻きつけて固定した10分の1の建築模型を、手で指し示しているところ

國清この模型を作りながら考えてやったのが、2フレームでユニット化していく組み立て方です。

國清まず2本のフレームを立てて、押さえている間に低い位置をラップで巻くんですね。すると、フレーム間の距離が固定されます。だんだん倒れてくるんですけど、その間に、隣の別のユニットとの間にラップを張ります。

國清そうすると、引っ張る力がいろんなところに働いてくるので、だんだん全体の形が安定してくるんですね。どっちかに倒れようとすると、逆側に引き戻す力が働くようにラップを追加する。というのが、なんとなく模型を大きいサイズで作ると分かってきて。

大きな模型から、別の機能を見出す

國清あと、この模型を作ってみてすごく良かったなと思ったのは、全体のフレームとは違う、線状の構築物がいくつかあるんですよ。

國清リブのように吊られているものは、最初、ライティングレールのイメージで作ってたんですね。照明が付いていて、膜を光らせるといいなと思って。

床に置いた10分の1の建築模型の全体像。アーチのフレームと、それとは別の細い線が重なっている

國清モデル上、最初ぐるっと回してたんですが、それをちょっと分割して、右側にも左側にも、なんなら高さを変えてやると。

國清そうすると、模型を見て感じたのは、全体のフレームが華奢なので、リブが同じくらい空間に寄与していたことです。開かれている状態と、囲われている状態が同時に感じられるなと。

國清意外とこれ、照明以外の機能として効いてるじゃん、と。

模型のスケールを変えることで気づくことが、作り方以外にも、空間のイメージとか印象というところでもある。

実物を、台風に当ててみる

上原事務所のベランダにあるラップは、何のために巻いてあるんですか。

國清このラップは、実際に使おうとしている実寸スケールのものです。ラップは、引っ張りによって線が入るので、その辺の見た目を実際に見たかったというのと、先週台風が来てたんで、どのぐらい形が崩れるかをちょっと見たかったんです。

屋外の柱に巻きつけた透明フィルム。引っ張りによって水平方向に線が入り、向こうの空と家並みが透けて見える
同じフィルムを別の角度から。手前にオリーブの葉、奥に青空と屋根が重なって見える

國清フレームが動かなければ、ほぼ崩れなくていけるなと思いました。あとは夜にちょっと照明を当ててみて、光の広がり方を検証してたりとかですね。

上原色も検討されているんですか。

國清もともと黄色のラップを使いたかったんです。だけど、実際に張ってみると意外と安っぽいなと思って。透明のラップの方が綺麗なんですよね。

國清ラップが透明だと、フレームは何色が良いか、まさに検討していこうという段階です。フレームがオレンジだとCGではこんな感じで。オレンジ色がすごく爽やかで、それでいて華やかなので、僕はいいなと思ってたんですけど、黄色のラップが意外と微妙だったので、ラップを透明にすることを先に確定した上で、フレームはどの色がいいかを検証しています。

オレンジ色のフレームと透明な膜でつくられたドームの内部のCGイメージ。木々に囲まれた円形のステージに人が集まっている

模型を作ったり、サンプルを見たりして、またこっちに戻ってくる。いろんなツールを行ったり来たりして。

「これだと思って作って、違うなと確認する」

上原この模型は何ですか。

國清僕がまだ独立する前に、お声がけいただいたプロジェクトで、プログラムは一棟貸しのホテルです。

円形の平面に中庭を持つホテルの建築模型。アクリル板と白いボードでつくられている

國清敷地がなかなかいびつな形だったので、あんまりこの敷地の形状に引っ張られない幾何学がいいよな、というのが直感的にあって。ほぼ円形の床と屋根に囲まれた内部空間の建築です。

國清ぐるっと回ると奥にプールがあって、その隣に浴室があって、ベッドルームがある。全体をぐるっと回れるようなプランで、真ん中に中庭があるという構成ですね。

國清お施主さんもすごく気に入ってくださったので、このまま進んでも良かったんですけど、ちょっと師匠の影響が強いなというのがあって。

國清スタッフ時代にやってたんで、それは影響を受けるよなとも思いつつ、独立をして、改めて全く別の可能性を1から考えてみたいなと思ってリスタートしました。

雲のような輪郭の屋根に、穴をふたつ開けた建築模型
鉛筆の線を残したまま切り出された、有機的な輪郭の建築模型
中庭の数を変える、まったく違う幾何学を試す。少しずつ条件を変えて繰り返す

國清例えば中庭という構成は崩さずに、丸一個じゃなくて2個にしてみようかとか、穴を2個開けてみようかみたいな、そのぐらいの細かい調整もしたり。もっと全然違う幾何学を敷地中に広げてみてはどうだろうかという案を試したり。

國清もっとシンプルに、屋根は複雑だけど、床はそんなに複雑じゃないよ、みたいな形にしてみるとか。

國清シンプルに建築として面白いんですけど、このプロジェクトじゃなくてもいいような形に辿り着くこともあります。

國清形も面白いし、空間の作りも結構良くて。いいなと思いながらも、今回の一棟貸しのホテルという用途や、いただいている与件とか予算の上でやっても、そんなに面白くない形だなと思って。そういう過程を繰り返すことで、プロジェクトごとの本質に近づいていきます。

上原スケールを横断した検討を繰り返すことで、「捨てて良いポイント」にも気づけるということですね。ありがとうございました。

この記事を書いた人 / AUTHOR

國清 尚之 NAOYUKI KUNIKIYO

一級建築士 | 株式会社國清尚之建築設計事務所 代表

1993年、山口県宇部市生まれ。九州大学 工学部 建築学科卒業。リヒテンシュタイン大学(スイスの隣にある小国の建築大学)に留学した後、東京藝術大学大学院 美術研究科を修了(修士研究は「21世紀の妖怪現象」というタイトルで、人間ではないものを通して現代を考えるテーマ)。都内の建築設計事務所で大阪・関西万博 会場デザインに関わる実務を経験したのち、2026年に株式会社國清尚之建築設計事務所を設立。日本建築学会の建築雑誌に文章を寄稿しているほか、出身高校の卒業生インタビューなどでも紹介されています。

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