独立してからの実作がほぼないため、私自身がどのように世界を観察しながら、どのような考えをもって建築を思考しているのかをクライアントの方々に伝えづらいと感じます。

また、名刺を交換するたびに、長々と対話をすることは実情として難しいため、お時間のある時に少しでも長い自己紹介ができればと思い、コラムを書き始めることにしました。

最初のコラムの内容がこれかよ、と思われるかもしれませんが、会うたびに聞かれることが多いので、いつも履いている靴について書いてみたいと思います。

01 履き始めたきっかけ

黒いサンダルを履いている足

ある日、大学院の生協に一足だけ黒い便所サンダルが売られていました。

一日の大半の時間を研究室で過ごしていた私は、外用の靴とは別に学校専用の靴として履いてみようと思い立ちました。

実は緑色や茶色の便所サンダルはたくさん売られていたのですが、それらの色はあまりにも便所サンダルという感じがしてどうも惹かれず、とりあえず一足だけあった黒い便所サンダルを買って、履き始めることにしました。

02 優れているところ

黒いサンダルを履いて外にいる男性

黒い便所サンダルを履き始めて気づいたのですが、まず便所サンダルだと気づかれません。

黒い服や靴下と組み合わせると、一日くらいは平気でバレません。履物としての主張を控えて足そのものと溶け合っている、その意匠性の高さがまず素晴らしいと思います。

次に、機能面です。まず圧倒的に通気性に優れています。例えるなら、ほぼ靴下の状態で街を歩く感覚に近いです。

可能な限り靴を履いていない感覚で過ごしていたい私としては、便所サンダルのおかげで、ほぼストレスフリーで一日過ごすことができます。

黒いサンダルで歩いている男性

そして、安いです。基本的にはネットで購入するのですが、一足2000円未満で買えます。たくさん歩く年でも、年に3足あれば持つので、年間で靴にかけるお金が6000円くらいで済みます。また、穴が開くということも基本ないので、割と使い古せるのも特徴です。

また、やや上級レベルの話になりますが、他人の役に立つときがあります。例えば、居酒屋の座敷で靴を脱いだ時に、タバコやトイレに行きたい方から‘‘ちょっと借りていい?‘‘と、言われることがあります。履きやすく借りやすい(貸してと言いやすい)他の靴にはあまりない特徴だと思います。

03 履き続けている理由

前述のように、優れている点は多々あるのですが、かれこれ10年近く黒い便所サンダルを履き続けている一番の理由は、別にあります。

それは、私にとっては、便所サンダルを履き続けることこそが、圧倒的に集中力を保てる鍵になっているからです。

大学院の研究室で履き始めた便所サンダルですが、研究室で過ごす時間が長くなると、次第にそのままの脚で帰宅をするようになりました。

家、駅、隣町と、どんどん便所サンダルで出掛けられる領域は広がり始め、いまや国境も越えられるようになりました。

シンプルな服装で室内にいる男性

私にとって、黒い便所サンダルを履いているというのは、研究室から出てきたままの集中力を保てている、ということを意味します。

建築を思考し続けることを自分の生活の中心に置き続ける鍵として、便所サンダルを履き続けています。

04 実際困ること

一番は現場に行く時です。安全上、さすがに靴に履き替えます。ただ、現場に入る直前まで便所サンダルを履き続けていることが多いです。

式典や重要な会合は、状況に依ります。可能な限り便所サンダルを履き続けていたいのですが、相手方に失礼があってはいけないので、靴に履き替えることもあります。

ただ、その時は‘‘靴を履いてるなあ‘‘という思考がずっと頭を巡るので、集中力が少し散漫になります。どちらが失礼に値しないだろうかと考え、その時々で決めるようにしています。

サンダルの足型

大雨や雪の日は、困りますが、履き続けます。逆に、靴下を脱げば濡れることも気にならないので、より開放的な履き方になります。

どうしても走らないといけない時、靴よりは走りにくいです。だいぶ走れるようにはなりましたが、さすがに足が疲れるのが早いです。

高いブランドが便所サンダルを出したときは、ちょっと嫌な気持ちになります。私の履いているシンプルな便所サンダルが、二番煎じに見えるからです。

変にデザインしないほうが、便所サンダルは良いと思います。

05 これからの目標

サンダルのある玄関

なるべく履き続けたいです。それに尽きます。

そのためには、生産中止にならないこと、がまず第一です。

昨今の世界情勢から、明日何が高騰するか分からないですし、製造メーカーが倒産したり、黒だけ廃版になることもあるかもしれません。

履けなくなる日が来る、というのも全くなくはない話だと思っています。

あと、いまのところ現れていないのですが、足元に厳しいクライアントとお仕事をする時は悩むと思います。

両立できる新しい便所サンダルが発売される日が来るかもしれませんが、現時点ではそういう話は聞かないので靴を履くべきか悩ましいなと思います。

建築家である以上、複雑な与件や時代の流れに合わせて、しなやかに変わるべきという意識はあります。ただ、便所サンダルくらいの変わらない意地は張り続けてもいいかなとも思っています。

やはり、足元は黒い便所サンダルの方がいつも通りに集中できます。

この記事を書いた人 / AUTHOR

國清 尚之 NAOYUKI KUNIKIYO

一級建築士 | 株式会社國清尚之建築設計事務所 代表

1993年、山口県宇部市生まれ。九州大学 工学部 建築学科卒業。リヒテンシュタイン大学(スイスの隣にある小国の建築大学)に留学した後、東京藝術大学大学院 美術研究科を修了(修士研究は「21世紀の妖怪現象」というタイトルで、人間ではないものを通して現代を考えるテーマ)。都内の建築設計事務所で大阪・関西万博 会場デザインに関わる実務を経験したのち、2026年に株式会社國清尚之建築設計事務所を設立。日本建築学会の建築雑誌に文章を寄稿しているほか、出身高校の卒業生インタビューなどでも紹介されています。

CONTACT

建築設計・内装・インスタレーションなどの
ご依頼・ご相談について、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム →